エンゲージメントを高めるためのコミュニケーションのテクニック(1on1、会社と社員のビジョンマッチング等)を考える前に、自分自身がどのような感情でいれば、組織に流れる空気が変わり、従業員の組織への献身度が変わるかを認識することが重要です。

リーダーがよい感情状態でいることによって、エンゲージメントと言う文脈だけではなく、何よりリーダー自身の心の健康を維持し組織の成功に繋げることが出来ます。

脳科学の分野でも既に言われていますが、幸せな感情、つまり愛、感謝、好奇心、情熱、決断、寛容、自信、高揚感、活気、貢献心、自由などの感情状態は、「前頭前野」と言うクリエイティブな脳を活性化させます。さらに実行を推進し、決断を可能にする状態を作ります。

一方、苦しい状態、つまり不快、恐れ、傷心、怒り、フラストレーション、失望、罪悪感、孤独、ストレスなどの感情状態は動物脳と言われ、危険から身を守るための「大脳辺縁系」が活性化している状態です。知的レベルは下がり、チャレンジを拒み、クリエイティブさに欠け、外界に反応的な思考や態度を生み出します。

この大脳辺縁系優位の状態はエンゲージメントの高い組織のリーダーとしては程遠く、自分を守ることに意識が向いて他者に関心が向いていません。それどころか恐れや不安の感情では、周囲への疑いの目で人や出来事を見始めます。

コロナ禍になり、目視で従業員を監視できないのでパソコンで利用環境をトラックするシステムを導入し「今、どこにいて何をしているのか?」と従業員が困惑するほど頻繁に確認を取るマネージャーがいると聞きました。これは、苦しい状態、恐れや疑いの感情状態からのマネージメントに他なりません。

本連載のテーマであるエンゲージメントとは、「従業員と会社、従業員と従業員の繋がり合い、従業員が会社に自発的・主体的に貢献している状態」のことです。周囲の人々との繋がり合いがエンゲージメントの焦点にもかかわらず、大脳辺縁系優位の状態では従業員への疑いの思考に入ってしまい、その状態を実現しません。どんな感情状態から行動を起こすかが、エンゲージメントを高めて成果を出すために非常に大切なことです。

私も学生時代はアメリカンフットボールで学生日本一と言う最大の成果を得たものの、あまりに日々のよい感情を手放していたため疲弊してしまい、学生生活が終わるや否やアメリカンフットボールを辞めました。「日々幸せな状態にあり続けた先に目標達成があり、それが成功」だと気づきました。組織は日々の幸せな感情状態と目標達成を同時に叶えるもの(第二領域)でなければ、成功ではありません。

また勘違いをされやすいのですが、幸せな感情状態とは、快楽に走って成果を出すための行動をしなくてよい、と言うことではありません。あくまで日々よい感情で、自分の最大のパフォーマンスを出し続けることです。どんな感情状態から行動を取るかに最善の注意を払うことが大切です。

ステートファースト®(感情を最優先する生き方)の4領域

横軸は、立てた目標に対して達成したか、はっきりと分かります。一方、縦軸の感情面については、「幸せ」か「苦しいか」の2つの感情のどちらかであり、あくまでその人の主観です。

幸せであることが人それぞれの主観なのであれば、まず幸せを感じるよう目の前で起きる出来事を受け取り、主体的に第一、第二領域にいることを選択すればよいのです。私が9年間駐在した西欧では、日本と比べ、第一、第二領域の人々が多かったです。日本人は第4領域がボリュームゾーンです。