海外赴任をされた方が1年目に仕事上ぶち当たる問題の上位にくるのが「現地組織との壁」ではないかと想像します。「なぜ、思うように動いてもらえないのか?」という悩みです。
海外駐在員のほとんどは、日本国内で経験もしたことないような1,2階層高い役職を現地で与えられたいわば下駄を履いた状態で、やったこともないような仕事を任されますので、背伸びをしながらの任務遂行になります。加えて、言語や商慣習の違いに大きく戸惑いながらの取り組みになるので、さらに輪をかけて背伸びをした地に足つかない状態になり、大きなストレスがかかりやすいです。加えて、海外赴任者はそれなりの責任感のある人が多いので、そのストレスを一人で抱える傾向にあり、またそれを当たり前だと思いがちです。万一、自分が現地で機能していないと薄々気づいていても、心情的にそう簡単にはその状態を日本本社に報告することはないでしょう。
一方、会社側も遠い海外現地でのその駐在員の方の様子を逐一監視もできませんし、日系企業は良きも悪しきも大きな権限委譲をしていることが多い傾向のようです。現地組織の壁の問題は、背景が根深いものもあるため、本来は、海外駐在員一人のアドリブでに期待するのではなく、事業部門の上司・メンターや人事部門がそんな海外赴任一年目の彼らを一人にせずガス抜きをしたり、メンタルケアや事業支援に当たる必要があります。私自身も、そんな海外駐在員のバックアップを強化して欲しいと切に願う一人です。
私も27歳にドイツ赴任の配属となり、意気揚々と現地に乗り込みました。会社からの突如の辞令で、経営経験もなく、ドイツのことも全く知らず、独語も知らないながら、日本本社から派遣されました。ドイツ現地組織は1,300名もいる一巨大組織で、日本人だということでどうにかなる組織ではなく、また過去からの現地組織の日本人マネジメントへの不信感から、日本人マネジメントとドイツ人マネジメントとの間に大きな壁がある環境でした。当時を思い返すと、人によっては陰湿な態度や言動も取られたこともありました。一番辛かったのは、「海外まで来て、自分は全く機能していないのではないか」と自分のことを思えてならなかったことです。何とか、「どんな厳しいことがあっても自分はやっていける」と信じて、現地組織と一人間として接する態度を貫いた結果、ちょうど赴任一年後のクリスマスパーティーで、現地人トップから「すべての現地人はTamaを認めているから、引き続き助けてくれ」と言ってもらい最高に誇りに思える、一生の財産になる言葉を受けました。あまりに嬉しく、ほっとして、トイレに入って一人泣いていたのを思い出します。
私の場合は結果的に辛くも潰れずになんとかなりましたが、明るみにしていないだけでなんとかなっていないケースも星の数ほどあると思います。如何ともしがたい厳しい環境は、個人の力をつけるにはそれなりに良い経験になりますが、一方会社の目線ですと、会社業績をあげることが赴任目的にあるので、現地の壁でスタックするのようなロスは必要なく、それなりの赴任前の教育から赴任中の継続サポートまで支援体制を整える必要があると思います。
だから、私のようなパーソナルコーチ・コンサルを付けてくださいという話でもありませんが(笑)、まず日系企業の海外展開が思うように進捗しない理由がこの「駐在員への大きな委譲とそのあとの継続フォロー不足」にあると考えます。ここに対する対策を、「海外駐在員はあまり声高らかにうまくいっていないことを言わない」という前提で、丁寧に人事部門、送り出す事業部門、現地組織の三位一体でフォローアップサポートをする必要があり、特に現地組織とのすり合わせは重要です。
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