~「状態」そっちのけの生き方しか知らなかった私だから気づき、技術として体系化できたこと~
前職のコニカミノルタ株式会社にて27歳でドイツ子会社への赴任しました。その後のベルギー異動を含めて合計9年の間、海外駐在員として赴任の機会をいただきました。
赴任した当初、成果を出すために死に物狂いになって仕事をすることが当たり前、ましてや高給取りのマネジメント達は馬車馬のように働くことを当然だと思っていました。そんな私は、ドイツ人の働き方に衝撃を覚えました。
仕事もせずに廊下で雑談ばかり、明日できることは明日する、何かを依頼してもまず「できない」と言う、金曜日は15時には全員帰宅してもぬけの殻、夏のバカンスは職場の人たちで順々に各人2週間以上取るので7、8月は開店休業状態でした。この時期は、どんな仕事の案件があっても「担当の同僚が帰ってくるまで待つしかない」として仕事がストップします。日本本社は、そんな欧州の仕事の仕方を考慮することはありませんので、私は板挟みです。赴任当初は「なぜ死ぬ気で仕事をしないのか」と怒り心頭の状態でした。
ドイツ赴任一年目の私は、そのような価値観の違いが元でイライラした状態でしたが、それに輪をかけてどん底に突き落とされた環境にありました。27歳の若造でしたので、何もわからず”上から目線”でその道百戦錬磨の現地マネジメント陣と接してしまい、彼らから1年間総スカンを食らっていました。
経営の本質もわかっておらず、ドイツ語の喋れない私は毎週月曜日午後のドイツ語の経営会議にポツンと出席したり、ひどい時はドイツ人社長に会議が終わった瞬間に私の提案書をびりっとやぶられたこともあります。
そのような状況にあってさらに、成果目標達成の権化の私は彼らドイツ人のことを仕事をしない根性なしだとナメていました。赴任して1年間は私の中で、私の信じる苦しい成果目標実現至上主義と、ドイツ人の人生を楽しむことを最優先する価値観の間で紛争が繰り広げられていました。
この時も同じく、自分自身を追い込んでいました。「ここで赴任が失敗したら、キャリアに傷がつく。そんなことは絶対にあってはならない。現地マネジメント全員に自分を認めさせる。」と意地になっていました。
案の定、月曜日午後の週次会議が恐怖になり、サボれる理由が突然降ってこないかと思っていました。今思うと、当時もうつ病寸前でした。結局、腹をくくって現地組織にまず人として認められることを考えて、コツコツ信頼を積み上げていくことになりました。受付から社長まで、ほぼ全員個別で接触していきました。
そんな中、赴任1年後のある寒い雪の降る日にクリスマスパーティがありました。パーティーも最高潮に盛り上がる傍で、そのドイツ人社長から言われたんです。「Tama、お前みたいなオープンマインドな日本人は初めてだ。マネジメント、社員全員、お前を好きだし認めている、頼むぞ。」。アルコールも手伝って、トイレに駆け込んで号泣した時の熱い気持ちを今でも鮮明に覚えています。
それまでの期間は、私にとっては、相当な価値観のバトルが繰り広げられた1年でした。マネジメント陣に心から受け入れられると、たちまち私も彼らの価値観を心から受け入れることができるようになっていました。そうすると視界が一気にクリアになっていくのが自分でもわかりました。
そのクリアな視界でよくよくドイツ人の働き方を見ると、自分達の人生を楽しむことが最優先の生き方の土台があって、その上で最善の仕事の仕方を選んでいました。会社の業績においても、会社はマーケットシェアもNo.1でした。
いよいよ、彼らの普段の意識が日々の「状態」にあることに気づいたのは、本当に些細なドイツ人の同僚の質問からでした。私の同僚で同じくドイツに赴任している日本人の先輩がいました。できる人なので、非常に忙しい人でした。その同僚はあちこちで引っ張りだこなので、よく廊下を走る癖がありました。私にとっては、すごく献身的で努力家でデキるすごい先輩です。
ある時、ドイツ人の同室の同僚が怪訝な顔で私に質問しました。
「彼は、なんでいつも走っているのか?」
私はこの質問でいよいよ、核心に気づきました。彼らが大事にしているのは、「状態」です。私にとっては忙しく献身に働く姿勢が美徳ですが、彼らにとっては美徳でもなんでもない。美徳であるどころか自分の状態をコントロールできない人、と彼らには映っていたようです。状態が良ければ、成果を出せる。
「この人たち、機嫌良くいるためにいろんなことを考え尽くしているんだ」
「自分の状態を大事にしているから、他人の状態を犯さないよう気を使っているんだ」
「バカンスを楽しむために働いていて、そのために工夫を凝らしているんだ。」
今まで見えてなかったものが、全てスーッと入ってくる感覚でした。
日本には成果目標達成を目の前にすると、忙しくしたりむすっとしたり、状態を崩しても良い、もしくはその方が評価されるという風潮がどうしてもあります。成功のイメージが、「頑張る」に代表されるような苦しい状態から成果目標達成する世界です。
「成果目標実現を前にしても、優先するべきは日々の状態」
「ご機嫌は自分で取るもの」
「『頑張る』という言葉をあえて使うのであれば、ご機嫌でい続けるよう頑張る」
そんな世界があることがようやく腑に落ちた出来事でした。
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